絶対的貧困と格差
日本科学者会議の機関誌「日本の科学者」07年2月号で、二宮厚美さん(神戸大学)の書いた「格差に引き裂かれた日本」を読んだ。
格差は二重構造になっているというのが二宮さんの言いたいことである。
グローバリズムの進行による階級的労使関係の深化は「総人件費の圧縮」を生んで、労働者階級全体の貧困を加速し、とりわけ下層労働者には絶対的貧困をもたらした。下層労働者はその絶対的貧困の中で、能動的に何かを始める自由を奪われてしまった。これが何より問題であり、格差の大構造である。ここに働くのは「資本の原理」である。
同時に階級支配の手法として常に採用され続ける分断支配という方法と、新たな手法である「人件費の変動費化」によって、労働者階級内部の分断・競争・差別・不平等が進行している。これは格差の小構造であり、ここに働くのは「市場の原理」である。
世間に流布している格差論の多くは小構造の格差の深まりのみを論じており、大構造の格差、すなわち絶対的貧困層の拡大には目を向けない。
安倍首相の言う「再チャレンジ」=機会の均等論に対して、今の政策ではそれが実現しないと批判する格差反対論は間違ってはいないが、より根本的な「機会の均等が保障されているだけでいいのか」という批判が忘れられてはだめなのである。
二宮さんの言うことをかいつまんで言えばそういうことになるのだが、これに従えば現代を「格差社会」とだけ呼ぶことでは済ませず、「貧困・格差社会」というのが正しいのだろう。
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