« McGee「Evidence-Based Physical Diagnosis(証拠に基づいた身体診察診断学)」Saunders2001:君はチャングムに迫れるか | トップページ | 絶対的貧困と格差 »

2007年1月24日 (水)

草の根からの地域医療TQC

莇(あざみ)昭三先生が会長だった頃の全日本民医連が掲げた「地域医療の民主的形成」のスローガンは、おそらく唱える時期が早すぎたのだろう、具体的課題の発見に結びつかず、結局は綱領路線の一表現とされて、もはや使われなくなった。

しかし、この表現はもう一度光を取り戻しつつあると私には思える。

一つは、いわゆる「医療崩壊」が大半の医療機関を襲い、地域医療の「再建」が医療界全体の課題にならざるをえないなかで、このスローガンが具体的な諸課題を発見しつつあるからである。
たとえば、私が今考えているテーマは、県下の公立諸病院の現状把握と対策の提案である。以前なら民間病院にいる私たちにとってほとんど何の必要もなかったこの作業も、現時点では医療改善運動上の大きな意味を持っている。

もう一つ、「医療崩壊」とは直接関係がなく、医療自体の内発的発展によって、医療機関同士が結びつかざるをえなくなるという見通しにかかる。

昨夜、同僚の医師に、彼が書きあげたばかりの「地域緩和研究会会報」をもらったが、それを読んでもこの感を強くした。国立病院、私たちの病院、民間病院、企業立病院、一人の開業医、医師会立訪問看護ステーション、大学病院の職員が世話人に名を連ねるこの会は、行政や医師会がお膳立てしたものではない、純然たる草の根の自主的な集まりである。
このメンバーに、もっと多くの開業医や、また特別養護老人ホームや老人保健施設が加われば、真にこの地域の緩和ケアを担う実力のある組織に発展するだろう。
緩和ケアにかかる相談が、この会の事務局やホームページの掲示板に集中し、場合によってはこの会のメンバーでつくられたチームが、現場に赴いて援助することもありうるのではないか。
とくに、今後看取りを多く引き受けさせられようとしている在宅、老人施設ではそういう援助を切実に待っているに違いない。

こうした草の根の地域連携は、もっと他の領域に広がる可能性がある。まず思いつくのは院内感染防止、栄養サポート(NST)、臨床倫理などの諸活動だろう。

ある意味では、現状でいまひとつ発展の芽をつかめないでいる活動テーマも、地域連携の目で見直せば新たな発展の可能性を展望できるものもあるはずである。

たとえば、私たちの法人の歯科からの市内老人施設への往診は活発に行なわれており、それによって口腔ケアに対する各施設の意識が向上しているが、もう一歩踏み込んで、その施設での栄養サポートチームNSTの確立への援助や参加もありうるのではないか。そこから地域レベルでのNST活動研究会への足がかりができるかもしれない。これは、やはり昨夜の保険医協会の集まりで、保団連歯科部が準備しているNST活動を啓蒙するパンフレットの原稿を見たことにも関連する提案である。


そして、それらの諸活動が合流すれば、地域レベルの草の根からの医療の質の総合的管理TQCというものが成り立つ可能性も出てくる。それは、まさに「地域医療の民主的形成」そのものである。
莇(あざみ)昭三先生が30年前に夢見たことは、そのとき本当の真価を見せるのだろう。

もちろん、こんなことが簡単に進むなどとは誰も思わないはずである。上からの(官製の)ネットワーク作りがかならず対抗して出てくるし、それによって連携の方向が「安上がりの医療」方向へゆがめられるという可能性のほうがもっと大きい。しかし、私たちが私たちなりの展望を持つことの必要性は、どの時点でも否定されるものではない。

*発展のわずかな萌芽を目にして、すぐにこういう展望を語ってしまうのは私の弱点かもしれないが、語るべき時期を待って語るという悠長さがもはや許されない年齢になってもきているので、そこは許してもらうことにしよう。

|

« McGee「Evidence-Based Physical Diagnosis(証拠に基づいた身体診察診断学)」Saunders2001:君はチャングムに迫れるか | トップページ | 絶対的貧困と格差 »

経済・政治・国際」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 草の根からの地域医療TQC:

« McGee「Evidence-Based Physical Diagnosis(証拠に基づいた身体診察診断学)」Saunders2001:君はチャングムに迫れるか | トップページ | 絶対的貧困と格差 »