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2006年4月19日 (水)

テオ・アンゲロプロス「エレニの旅」

テオ・アンゲロプロスの「エレニの旅」のDVDを購入して何度か見たが、見るたびに前回見落としていたものを発見する。

簡単に言えば、ロシア革命下のオデッサで死んだ母親にすがりついて路傍で泣いていた幼女が、難民としてさまよい、母親となり、夫を失い、故国ギリシアの40年後の内戦のなかで兵士として死んだ我が子にすがりついて号泣するまでの物語だと言える。

その画面の向こうに広がる湖は、世の中の母親が流さなくてはならなかった涙の総量だろう。

なぜなら、これも運命に翻弄されて沖縄・慶良間島で米軍兵士として戦死した夫が、いつか一緒に尋ねようと彼女に約束した川の源とは、彼女の涙が滴り落ちる草原だったからである。

原題 weeping meadow 「嘆き泣く草原」はそう意味から付けられた。このように書いていくと、涙と海と眼について語った有名な短い詩を私は思い出さざるをえない。

一方、細部をよく見ると、話題になった湖上の葬列は黒澤明の作る戦国映画の画面によく似ているし、白いシーツの丘で革命家が殺されるシーンはアンジェイ・ワイダ「灰とダイアモンド」そのものという気がする。

結局、この映画は、アンゲロプロスが彼の20世紀を総括する映画なのだとしか言いようがない。もちろん、それを見るものも自らの20世紀を直視することになる、そういう映画なのである。

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