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2006年3月27日 (月)

ワーキングプア層の不満をそらせる標的:それは中国、韓国だ

2006年3月27日

今年4月から実施の診療報酬改定の内容が明らかになったあとは、緊急に全職員への説明が相次いで行なわれている。私も、今年の診療報酬改定の背景や、病院としての対策を説明する時間が増えた。

突然やってきた6%の収入減にどう対処するのか。手法の問題としてはそもそも無理な話である。となると、なぜこういう事態になったのかを、地上100kmくらいの高さから見下ろした話からはじめなくてはならない。

今起こっていることは、単純に戦後の低医療費政策の延長ではない。日本の支配層の戦略が大きく変わって,その部分現象として医療情勢の激変が生じているのである。形式的には部分現象に過ぎないが、実質的には医療や社会保障の領域は変化の中心に位置している。

日本の支配層の目標は、日本を米軍と一緒に海外で軍事行動ができる国家づくりを進めることと、構造改革の完成にある。前者のためには憲法改正が必要である一方、後者は法律改定で済むという違いはある。しかし、たとえば憲法25条をなくすことができれば医療構造改革が一気にやりやすくなるように、両者は無関係ではない。なによりも両者とも日本と米国の支配層の要求という同じ根拠を持っている点で、事実上一体のものとして進行せざるを得ない関係にある。

構造改革は簡単に言えば、経済のグローバル化の深化の中で日本と米国の大企業が日本社会の中で自由に利益を追求できる体制作りのための運動である。構造改革のためには企業側の社会保障負担の足かせのみならず、古い日本社会の中で社会保障の代替品を提供するという役割で自民党の集票マシーンともなってきた各種業者・利益団体への利益提供の切捨てが実行される必要がある。こうした業者団体の典型が日本医師会だった。日本医師会は開業医の利益を第一に追求しながら、それから派生して患者の利益の代弁者の役割もある程度は勤めてきた。しかし、そのような利益の提供は終わり、日本医師会は政治的影響力を失った。

彼ら旧来の支持勢力を切り捨て票田を失えば、新しい票田が必要となる。それが日本最大のカルトである創価学会=公明党である。池田大作名誉会長が生きている間は創価学会には致命的な弱点があり、それを守りさえすれば当面の新票田は確保される。これが構造改革の舞台裏である。このことを見抜いていち早く実行したのは小沢一郎であり、一度は自民党から離脱した彼の政権が誕生した。しかし、自民党自身が旧支持勢力切捨て、公明党との連立を決断すると出番はなくなったのである。

構造改革のもとで国民生活はどう変化したか。フルタイムで働くパートタイマーの激増と、正職員賃金の目を覆いたくなるような切り下げである。こうしてフルタイムで働いても生活保護水準以下の賃金しか得られないワーキングプア層が大量に出現した。

社会は格差社会となり、その社会統合法は「上層社会統合」となった。簡単に言えば「上層社会=勝ち組が社会を支配するのは当然、誰もが勝ち組を目指して競争しなければいけない、そのための機会の平等は保障しているので、結果として負け組みになった場合は自己責任としてあきらめろ、いろいろ要求はするな」というものである。

収入の絶対額からいえば日本のワーキングプア層の収入は外国の貧困層に比べ低いわけではない。しかし彼らににとって致命的なのは日本の社会保障のセーフティネットの底が抜けていることである。日本の生活保護人口は全人口の1%弱だが、たとえばイギリスでは何らかの生活扶助を受けている層は25%に及ぶ。比較的低い賃金銀でも高い社会保障給付で生活が安定する西欧・北欧との大きな違いがワーキングプア層の悲惨さを生むのである。

ワーキングプア層の不満をそらせる標的もすでに準備してあるというべきである。それが中国である。3月19日の防衛大学卒業式で小泉首相は、「不透明な軍備拡大が進む国」と中国を非難した。麻生外相が繰り返している発言である。リアルに考えて中国は仮想敵国ではありえず、むしろ下層国民の不満の捌け口として巧妙に仕立て上げられつつあるといってよい。しかし中国国旗を日本のデモ隊が焼くとき、新たな戦争が準備する政権が成立してしまう可能性は十分にあるはずである。

この構造改革が医療分野に現れたのが医療構造改革である。公的医療コストの徹底的縮小が、①患者負担増による受診抑制、②診療報酬引き下げによる人件費削減、③制度改定による病床数減らしという形で極限まで進められる。あわせて、④医療市場が可能な限り拡大される。それは混合診療という形態をとって進められる。公的保険がカバーしない分を給付する私的保険商品の洪水であり、いまでも米国保険会社の浸透が著しい。

医療構造改革は、制度的には国民健康保険の崩壊に象徴され、国民の健康面では健康格差という形で現象する。国保滞納世帯はすでに加入世帯の19%に達し、1年以上滞納の場合に給付される資格証明書交付世帯の医療機関利用率は、そうでない世帯の100分の1である。この層の健康状は悪いのが当然なので手遅れ死亡が続発するのは必然である。全国の医療の1%強を担う医療団体の5年間のまとめでは18件の手遅れ死亡が報告されている。その100倍以上の、「保険証1枚で十分な医療」の制度の恩恵を受けられず無念の死を遂げた人が全国には存在するはずである。

また、5段階に分けた収入最低層の不健康度が収入最高層の5倍に達するという状態は、ほとんどすべての健康指標をとってみても共通するのは収入格差に原因する健康格差が実際に存在するからである。

健康格差が存在すれば、支配層が力説する「機会の平等」という社会統合の前提は崩れ、格差は循環しながら再生産され、格差は永久に固定され拡大するのである。

だとすれば「努力するものが報われる」という構造改革のスローガンは根底から疑われ、改革の非倫理性が今こそ多くの国民の認識になるべきではないか。そのように運動展開することこそがいま医療機関、医療関係者に求められているのである。

その構えを基礎においてこそ、経営改善への細かな努力の積み重ねも患者・市民から許容され、運動が広がる間、わずかでも息をつく余裕が与えられるのである。

このように語りながら、私がおもわず思い出したのは、ネップの方向を確立したころの晩年のレーニンだった。反動や侵略と闘いながら、若い労働者国家が発展の希望を見出すまでのかなりの長い間、資本主義的手法を急いで学び、何とか生き延びていかなければならなかったのは決して昔の話ではないとに思えた。

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